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November 01, 2007

月島から伝われ歯科の良心

★みんなの歯科主催緊急座談会★

11月11日に東京、月島区民館にてみんなの歯科主催の緊急座談会が長野県歯科医師会会長
一志 忠廣先生と医療ジャーナリストの杉山正隆先生をゲストに迎えて開かれます。
40名の定員はほぼ埋まり、会員の関心の高さが伺えます。
ここに来てマスコミ各社から、歯科医療の現場に起きている事柄に関して、みな歯科に注目が集まっ
ていますが、みな歯科が、はっきりとした意見の集約の元に、決まった目標に向けて一致団結して
活動していると言う訳ではありません。
むしろ会員一人一人が日々の診療や仕事に悩みながら、あふれる情報の中から明日への希望を
模索していると言うのが本当ではないでしょうか。

これまでに歯科医療の現場について、社会やマスコミからの注目がなかったわけではありません。
しかし殆どのニュースや報道は、国民や患者さんたちが自分の受ける歯科医療について知りたいと
思うような業界からの情報発信というような、有益な情報ではなく、歯科業界が起こす不正や事件
事故の報道ばかりで、歯科医療保険やその制度、歯科医院の中で起きていることについては、
殆ど触れられてこなかったと思うのです。

ご存知のように、2008年度の保険医療制度改定に向けて中医協での審議が始まっております。
またレセプトオンライン化の導入は2011年にも施行されるようです。
原案どおりに改定されルールやレセプトなどが厳格化されれば、歯科医師の大半は歯科疾病の
保険治療ではなく、よりお金になる、所謂自費的な歯科補綴にシフトしようとするのでしょうか。
歯科医師や歯科技工士の算盤勘定どおりに、患者さん国民の理解が向かい、需要が惹起されるかは
疑問であります。

首都圏にある中核市を目指す都市でユニット数25台、最新CTや手術室を3室完備した地上4階建て
の歯科医院が開業しました。
院長のコメントには保険医でありながら、日本の保険では質が限られるので保険外の診療に重点を
置いて来たと。 これが今のトレンドなのでしょうが、見る人から見れば藤枝市民病院のように地雷原を
歩いているようなものです。
私が思うには、歯科診療の質には保険も自費もないという事です。 
歯科疾病としてカリエスが起きていたり神経が感染しているのであれば、完治するまできちんと治療する
事は最低条件であり、保険だから質を保証できないとか、自費だから完璧に出来ますというようなことで
はないはずなのです。

えてして歯科医師の陥りやすい陥穽は、質や技術と言うものが歯科疾病治療の範疇ではなく、
補綴と言うべき言い方は悪いが歯大工と呼ぶべき部分にのみ目を向けてしまう事です。
そうなると、患者さんの病状に対してよい診断を下しよい診療を行い、速やかに痛みや病状を消滅させる
事よりも、いたずらに患者さんの不安やアメニティ的な意識を刺激してよいサービスとその情報を提供して
行く事なんだと勘違いしてしまいやすいのだと思います。

歯科医師が目指すべきものはいいものの提供ではなく、いかに安全と安心の診療を多くの悩める患者さん
に提供するかという事ではないのでしょうか。

歯科技工士はその様な歯科医師の縁の下の力持ちとして、でしゃばる事無く存在するものだと思っていました。
歯科医師がカリエスを処置し、根幹感染などの痛みや全身に危険を及ぼす症状を治癒させた後に、
患者さんの最終的な美味しくものが食べられる機能回復と、笑顔で向き合える審美などを提供するお手伝いを
するのだと。

皆保険制度に於いては、診察や治療の最新技術や行為がなかなか医療保険制度に組み込まれることが
ありませんでした。
私が歯科技工士だから、その部分の情報や知識に疎いのもありますが、歯科医師たちが求めるものは
歯科医療保険制度に行為や技術の進歩を取り込み反映させる事よりも、掛かりつけ医制度や補綴物維持
管理料など、実体を伴わない請求すれば取れるだけの制度の創設や、既存の行為への点数アップ、
解釈拡大ばかりで、実際に役に立つ医療技術や行為を保険に組み込むような努力をしていなかったか、
むしろ自費で提供する事の方がお金になるからと組み込むことを自ら拒んできたようなところがあります。

しかし、前にも書きましたように、いくら保険外でよい医療、よい技術や物があると伝えても、実際の需要は
保険の範囲が9割を超えているのです。
金額ベースではなく件数ベースで言えば日本の歯科医療で自費診療の占める割合はわずか4%程度
だという分析データがみな歯科にはあります。
我々はたかだか4%の実数を元に、より努力をしよいものをあまねく提供していると宣言できるのでしょうか。
はっきり言って歯科医師や歯科医師会が求めて提供し、歯科技工士もまた追随してきたきた事は、
民意と完全に乖離していると私は思うわけです。

歯科医療業界では、歯科医師も歯科技工士も歯科医療保険制度の充足を考えるよりも、いいもの高いもの
高度な技術を伴うものを、提示し供給すれば国民や患者さんは困り果てて食いついてくるとしか考えていま
せんでした。
これは歯牙の痛みや欠損、審美的なコンプレックスに悩む多くの患者さんに対して、その痛いところ、
歯に対するコンプレックスや日々の辛さを逆手にとり、あるいは人質として、押し付けや誘導行為につながり、
毎日のように保険では出来ませんと言う事で、結果的に保険診療と自らの保険歯科医師としての信用を
落としてきた事に繋がる訳です。 
制度を否定する事が歯科医療の、自身の否定に繋がる事など想定できていない訳です。
むしろ患者さんが知らないメリットや情報を積極的に活用し提供する事が患者利益だと。

歯科技工士にしても、保険ではだめだ喰えないということで、インプラントやオールセラミックスの作製技術を高め
それを積極的に歯科医院にセールスして行く事が当然とのスタンスです。
どちらもあまりにも自己中心、短絡的な利益誘導と言えます。
歯科医師のような縛りが無い分、歯科技工士が後ろめたさを持つ事はないはずなんですが、医療の名目で
市場の需要を呼び起こす事が歯科医師歯科技工士双方の役割なのかと言う疑問もあってしかるべきなんです。

中医協などで医療保険制度の改定が行われる度に、歯科医師会などはこの点数では出来ない、
この改定は飲めないと言うばかりで、患者さんに向けて言う「保険では質が限られるので保険外の診療を」と
言う言葉を、なぜ「今は自費で提供していますが、保険制度に組み入れることで広く国民により良い医療を提供
できますよ」と言えなかったのか。

結局の所、良いと言う部分から得られる利益を、患者さんにも社会にも還元するのが嫌だからだと取られても
仕方がありません。
それを見透かされていたから、医療保険での歯科の予算はどんどん削られ、保険者や患者さんからも信頼され
なくなったのではないでしょうか。

保険医療制度の改定とレセプトオンライン化、それが生み出すであろう歯科医療業界の混乱や困惑。
多少なりとも歯科医療業界の良心や正論を見出したいと日々議論を重ね、新たなコンタクトを構築し、
データ収集を図っているみな歯科ですが、社会からのダイレクトな関心が私たちに向うにつれ、私達自身が
如何にコップの中の議論や認識に凝り固まってきたかを痛感しております。
歯科技工士は専門職として最低2年間の教育をうけ、歯科医師であれば医療職として最高学府で6年間の
勉学と更に臨床での研鑚があります。
そうして身に付ける知識や経験は患者さんにはないものであり、我々だけが持ちうる武器ではあります。 
しかしそれは歯科疾病と戦うべき武器であり、患者さんの歯科疾病を人質として、国民に向けるべき武器ではない
はずです。

発足以来一年半でみな歯科は様々なメディアからも視線が向う存在になったのかもしれませんが、
私たちの存在が注目される事こそがコップの中の異常さを示しているのだと自戒せねばなりません。
私自身、誤解や異端視される事への恐怖はあります。 

歯科業界内部で互いに敵視しあう状況から、時に犬死だ、いっそ全て破壊されてしまえと投げやりになり、
思いは右顧左眄し自暴自棄に陥りそうなのではありますが、歯科業界内部だけの対立であればまだしも、
今のままに業界が進めば、国民患者さんを含めてコップの外をすべて敵に回すことになるでしょう。 

いまや守るべきは歯科医療業界ではありません。 
歯科医療への信頼が失われた事と、歯科医療業界への信頼が失われた事がイコールとはならないのです。
歯科医療への信頼だけは死守せねばなりませんし、我々が売名行為と指弾されたり、先陣をきったが故に
集中砲火を浴びようとも、最低限守られるべきは国民が安心して受けられる歯科医療であるはずであり、
それを提供できるのは自分達であると誇りを持って言えるようになるまで、自浄自戒の作用が歯科医療業界
から起きなければならないのです。

過去に歯科技工業界からは歯科技工士の悪劣な労働環境や地位の改善を求めて「歯科技工未来の草案
フォーラム」が草の根的に立ち上がり、少なくともそこから派生した運動や意識が、今もわずかながら前進し
つつあります。 しかしそれとて歯科技工業界というコップの中のわずかな動き、異端と取られ、国からも
技工業界からも封殺される恐れがあります。 
みな歯科の活動も、それと同じ運命を辿る恐れが無きにしも非ずですが、11月11日に月島区民館にて行わ
れるみんなの歯科ネットワーク緊急座談会~ どうなる?これからの歯科界、歯科医療制度~が、歯科業界
からの自浄自戒の発露であり多くの国民に届けるメッセージであることを切に願うものです。

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Comments

読ませていただいて、感動しました。書かれている内容には共感できる点が多いです。歯科医師も、歯科技工士も、歯科衛生士も、歯科医療も「医療」であり、「社会保障の1つ」なのだと思い起こすべきだと思います。そうでなく、単なる金儲けの1つなのだとしたら、国民の支持は失われることでしょう。また、「専門職」としての地位は(今より更に)低いものとなるでしょう。今後のご発言、ご活躍を期待しております。

Posted by: 杉山正隆 | November 07, 2007 11:44 PM

杉山様

コメントをありがとうございます。
今日は座談会でしたが私自身は欠席となってしまい
普通に仕事をしていました。

文中、自費の割合が件数ベースで言えばわずか4%に過ぎないと言う部分に、歯科医療費総額のとかいてありましたが、これでは金額ですね。
歯科医療のわずか4%と言う事なので、本分も訂正しました。

さて、混合診療の論議がみな歯科でも起きています。 多分、今日の座談会でも話題になったのではないでしょうか。

保険制度を残して、部分的に或いは全面的に混合診療を導入するとします。
この場合でも、何をどう混合するのか私には予想もつかないしこれを入れてくれるといいなと思うのが関の山です。
しかし、何をどう混合するにしても、一度歯科医療業界側が混合を受け入れれば、保険が切り捨てられる事ははっきり予想できます。
国や保険者からは保険制度で行える事は限りなく薄く小さな範囲になるでしょうね。

そして、歯科医療側も保険を限りなく疎んじて、混合とは名ばかり、ほぼ自費診療に流れて行くでしょう。
誰も、お金にならない保険はやらない、客寄せの看板にしかしないだろうと思うわけです。

そんなことなら、名ばかりの保険を残すより、歯科は保険診療から外した方がよっぽど嘘がないと思います。

その様な状況で、技工を保険技工とを守れるのか維持してゆけるのかと言えば、私には望まれるような良いアイデアなど持ち合わせておりません。

歯科を巡る関係者の思惑、負担を減らしたい国や保険者には、歯科医療業界側が混合診療止む無し、その方が良いという声が上がるのを首を長くして待っていると思うわけです。

そして外資系の保険会社は市場に食い込み金だけとって給付はしないでしょう。

国民は自己負担だけが増え、しかも肝心の歯科医療は受けられず補綴の給付も無いと分った時に、一体どこに怒りをぶつけるのでしょうか。

今でも患者さん達の怒りの声が上がっていない訳じゃないのですが、保険医療制度が悪いのだと言って逸らしてしまっていますよね。

混合診療を導入させ、保険診療も駄目にしてしまったら、もうどこにも責任転嫁は出来ません。

現状では、制度にただ乗りし壊した者達が、食い詰めても何の反省も無く、患者さんや国民不在のところで、歯の痛みや病気を人質にして、どうだ!どうだ!どうするんだ!どうしたいんだ!と詰め寄っているようにしか思えません。

私達は歯科医療を武器にしてはいけない、それを国民に向けるようなことをしては、信頼回復などありえないことだと思う次第です。

Posted by: G3久保田 | November 11, 2007 10:14 PM

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