歯科技工の海外委託問題訴訟が最高裁に上告し、正式受理されて半年が過ぎました。
その間も各自治体では意見書が採択され、TBSの報道番組などでもこの問題の根深さがルポされております。
そんな中で、本部ブログへのコメント欄で、海外委託の当事者である篠田先生や、二年ほど前に日本での歯科技工士生活にピリオドを打ち、
中国での再出発を果たした王譯平氏と、一般の大学生とが興味深い議論を戦わせておりました。
最高裁の判決前であり、訴訟当事者である私からはこの議論に口を挿むべき立場に無いと思い、見守っておりました。
そもそも歯科技工の海外委託問題訴訟は、本来国家規模で取り組むべき歯科技工士法違反である海外委託という問題に対し、当事者であるべき日本歯科技工士会が厚労省や日本歯科医師会との旧来の関係から抜け出せず、
取るべき措置や対策を起こさずにいたからこそ、損害賠償請求と言う形を取って80名の個人の集まりとして国を相手に、訴えざるを得なかった訳であります。
その根底には、法の不備、立法府の役割放棄、国の不作為をこの問題の背景に見ているからでもあります。
個々の事象や個人の行為を一つ一つ問題としている訳ではなく、歯科技工士法ではっきりと規定していながら、法律上の解釈や抜け道をそのままにしていては、いずれ国民の実際の健康被害が起きる事が想定される、それを防ぐには改めて歯科技工士法とは何かを、それが守ろうとしてきたのは何であるかを、国や国民の皆様に問うておるわけであります。
歯科技工士法や薬事法と言うものが存在しながら、海外委託された歯科技工物に対しては法的な網は何一つ掛からず、全てが歯科医師個人の裁量と責任とに帰趨すると言うのであれば、この問題の当面の解決策は、
海外委託を依頼し、導入している当事者たちである歯科医師や歯科技工士のモラル次第という結果になってしまいます。
本部ブログでの議論を見ましても、三者三様の立場でありながら共通する結論が当事者のモラルにあると言うのも当然の結果でしょう。
そしてそれでは埒が明かないと言うのも、法律を作ってくれ制度を作ってくれと言う意見を見れば、結果同じ事ではないかと言うべきであります。
最高裁の判断が出されるのも近いと思いますが、結論がどうあれ中国などの安い人件費と技工料金の委託先に、国内の需要が流れてゆき、結果、国民の口腔の安心安全が疑問視される事になった、そもそもの問題と理由、
歯科医療における皆保険制度や自費治療の混在、不当なまでに低点数化され採算無視のままに、歯科医師をコントロールする為のみに利用されているとしか思えない、保険診療制度と点数改定の現実、
歯科技工士制度発祥の時から引きずったままの、歯科医師と歯科技工士との利害の対決。
それらが、歯科医療における歯科技工士の存在や就労環境を厳しいものとせしめている事実は何一つ解決されていない訳であります。
歯科医師も歯科技工士も本来持つべき資格への責任やモラルを維持する事も出来ない所まで、歯科医療の環境は悪化し追い詰められているのだと言う事実を、もはや個人レベルでの自覚やモラルで語れる地点はとっくに過ぎているものと言えます。
現在までの皆保険制度や歯科医療を底辺から支えてきた、中高年以上の老いたる歯科技工士達は、いずれはやいうちにこの業務から立ち去る事になるのでしょうが、それでもこの日本から歯科医療と歯科ホテツとが完全に消滅する訳でもないのでしょうから、何らかの形で歯科技工の海外委託問題訴訟が提起した歯科技工物への安心安全と言うものが、担保されるようになる事を願うばかりです。
今この間にも、厚労省や日本歯科医師会、日本歯科技工士会と言った者たちは、何らかの事柄をやっていると言うのでありましょうが、それについては日歯と日技のプレスリリースやHPで断片を見るばかりで、本当の意味での対策はいきなりこうなりましたと言うような形で披露される事になるのでしょう。
保団連は5月27日に衆議院第一議院会館 第4会議室にて、保団連 海外委託問題国会内学習会を行った訳ですが、歯科技工とホテツ物の問題は、今後ともこのように国会議員の皆さまたちにも、歯科と歯科技工士の問題をしっかりと理解していただき、政府や厚労省が動かない以上は、国会議員からの立法化もやむなしとの声を出していただくしかない様に思います。
歯科技工は経営的な観点から語る事も出来ます。
しかし、歯科技工士となると、単純に経営的な観点からだけでは語れないものが存在します。
その言葉にならない歯科技工士の思いが、悪辣な就労環境や単価からすれば生活もままならない様な技工料金であっても何とかこの歯科医療と言うものを成り立たせてきたのだと思います。
歯科技工士の真心まで失うのは辛い。
その為にも、歯科技工士の側からも行動や提言をたゆまず続けなければならないでしょう。
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