« ◎「日本一新運動」の原点―31 日本一新の会・代表 平野 貞夫 | Main | 行き着くところは、タダ? 止まらない技工料金ダンピング。 »

December 15, 2010

エリート主義経済学と真正大衆国家日本の役割

エリート主義経済学と真正大衆国家日本の役割

増田 悦佐

 2008年のサブプライムローン・バブル崩壊に端を発した世
界金融危機の本質は何か。「市場原理主義の矛盾が噴出した結果
だ」というような議論をされる向きが多い。だが、欧米の政官界
の大物たちの言動を見ていると、これほど「原理主義」とは縁遠
いご都合主義的な対応もなさそうな気がする。

 彼らは、個人が相場を張って失敗すれば、自己責任のひとこと
で片づけてきた。だが、大手金融機関や先進諸国の政府が当然自
己責任を問われるべきバクチを打って失敗したときには、なりふ
り構わず巨額の資金を投入して救済している。こんなに露骨なダ
ブルスタンダードの持ち主のことを原理主義者と呼んだら、イス
ラムだろうがキリスト教だろうが、ほんものの原理主義者の方々
に失礼だろう。

 今、世界を舞台に展開している危機は、知的エリートの、知的
エリートによる、知的エリートのための経済学の破たんを告げて
いると見るべきだろう。1971年のニクソン大統領(当時)に
よる「金ドル兌換停止」宣言以来、アメリカ経済は海図なき漂流
に入った。しかし、1978年までは国民全体が経済成長の果実
を享受し、中でも所得階層で低いほうの世帯が実質所得の伸び率
が高いという、第二次世界大戦後の平等化に向かって進む経済を
維持していた。
 だが、イラン革命をきっかけに起きた第二次オイルショック以
後のアメリカ経済では、経常収支の赤字基調が定着するとともに、
国債の残高が急激に増加していった。つまり、政府は財政赤字、
国際収支は経常赤字という双子の赤字体質に転落したわけだ。も
はや、アメリカ経済に低所得層の底上げを図りながら国民経済全
体を成長させる余裕はなくなっていた。
 このころ、アメリカの知的エリートの中でも、とくにずるがし
こい連中が、意図的に米ドルの価値を毀損させつづければ(つま
り、インフレ政策を取りつづければ)、アメリカ国民全体として
は、諸外国に対する借金(経常赤字)の実質返済負担を軽減させ
ることができるし、アメリカ連邦政府としては国債の増発で税収
の枠を超えた資金を遣いつづけ、政府の国民に対する実質返済負
担も軽減させることができると気づいた。もちろん、これを永遠
にやり通してしまえば、実質的にはずっと借金で自分たちの稼ぎ
より良い生活をエンジョイしながら、最終的にはその借金を合法
的に踏み倒すことができるというわけだ。

 慢性的にインフレ政策が行われている世の中は、営々として稼
ぎ貯めた資金でチビチビ事業を拡大するより、ドーンと派手に借
金をして一挙に事業を拡大したほうが圧倒的に有利な社会だ。そ
れはすなわち、信用力が弱くてあまり借金のできない中小企業や
個人世帯から、信用力が高いのでひんぱんかつ大量に借り入れを
行う国や自治体、大手企業、金融機関へと所得が移転していく、
非常に不公平で不平等な社会でもある。
 
 現在の日本経済を見ていると、「デフレから脱却するまでは、
インフレ政策容認もありかな。だとすれば、金融機関にキャリー
トレードの原資を供給するだけのジャブジャブの金融緩和よりは、
財政出動のほうが弊害は少ない。むしろ、出動する対象さえまち
がえなければ、プラスにもなりうるし……」といった主張に与し
たくなる。だが、問題はデフレを脱却したとたんにきれいさっぱ
りとインフレ政策と決別することができるのかという点だ。

 インフレで恩恵を受けるのは、借金がやりやすかろうとやりに
くかろうと、社会的地位、政治権力、経済力などあらゆる意味で
優位に立つ知的エリートが集中している機関であり、組織だ。こ
の連中が「はい、デフレは終わりました。社会的平等性において
問題があるインフレ政策は、直ちにやめましょう」とあきらめる
だろうか。近代経済史をふり返るかぎりでは、いったんインフレ
政策を採用した政府が自主的にこの政策を返上した事例はない。
 「インフレ批判は、いずれはハイパーインフレに行き着くから
という議論しかない」と思いこんでいる人が多い。だが、ハイパ
ーインフレは国家破たんなり、悪性デフレへの逆転なりでほとん
ど暴力的に是正される。長期にわたって国民のあいだの経済格差
を定着させ、拡大する作用はそれほど大きくない。むしろ、ハイ
パーインフレの被害は、悪平等といえるほど国民各階層に及ぶ。
 本当にこわいのは、じわじわ続く穏やかだが顕著なインフレだ。
世界経済に関する統計集のようなもので調べていただければすぐ
分かるが、長期にわたって3~5%台のインフレが続いた国は、
ほとんど例外なく貧富の格差が激しく、社会階層のあいだの上昇・
下降の流動性の低い国だ。高度成長期の日本は、数少ない例外の
一つだったが。
 
 なぜ戦後日本は穏やかだが顕著なインフレの不平等化効果が低
かったかといえば、二つの要因が考えられる。一つは、実質成長
率が非常に高い時代だったので、名目所得の伸び率の中で実質成
長分に対するインフレ分の比率が非常に低かったことだ。その意
味では、高度成長期の日本の3~5%のインフレ率は、欧米で言
えば1~2%程度のインフレ率程度しか不平等性を拡大する方向
への所得移転効果がなかった。
 もう一つは、国や有力自治体のトップにも、一流企業の経営陣
にも「この際だから、借りて、借りて、借りまくってやれ。どう
せ、実質返済負担は、インフレが長引けば長引くほど軽減される
のだから」という、毒を食らわば皿まで的な方針を取った連中が
意外なほど少なかったことだ。この点は、自分たちに有利な条件
は徹底的に利用しつくすはずの知的エリートの知的水準が低かっ
たからだとも言えるし、彼らを監視する側の大衆の知的水準が高
かったからだとも言える。
 世界は今、借金まみれの虚構の繁栄の化けの皮がはがされる寸
前まで金融情勢が煮詰まっている。世界各国の先頭を切ってデフ
レ経済に突入した日本は、エリート主義者にとっての「万病を癒
す万能薬」であるインフレ政策の導入を許さない、賢い大衆に支
えられた国だ。
 さらに、ことあるごとに政府・日銀が「無為無策」を指弾され
てきた日本経済は、延々と続いた不況にもかかわらず、失業率を
5%前後に食い止めている。一方、エリート主義経済学
者たちに経済政策を壟断されている欧米先進諸国は、不況突入後
たった2年で軒並み10%前後、国によっては20%にも上る高
失業率にあえいでいる。
 世界で唯一の真正大衆国家、日本の使命は、貧富の格差を拡大
しない健全な経済成長は必然的にあぶく銭経済に堕すインフレ政
策とは相いれないことを、身を持って世界に示すことだ。そして、
世界中どこでも民主主義は本来そうあるべきだが、日本では政治
家は大衆を指導する立場ではなく、大衆に指導される側に立って
いる。
 この国の政治家の使命は、あれやこれやの経済政策屋のセール
ストークに乗って、過去20年間驚異的な不況抵抗力を示してき
た日本経済を変質させてしまうことではない。職と物価の安定、
軽めの税・社会保障負担という戦後日本の大衆が一貫して求めて
きた経済政策をすなおに受け入れ、堅持することだ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
☆最後までお読みいただき、ありがとうございました。

|

« ◎「日本一新運動」の原点―31 日本一新の会・代表 平野 貞夫 | Main | 行き着くところは、タダ? 止まらない技工料金ダンピング。 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/85649/50307542

Listed below are links to weblogs that reference エリート主義経済学と真正大衆国家日本の役割 :

« ◎「日本一新運動」の原点―31 日本一新の会・代表 平野 貞夫 | Main | 行き着くところは、タダ? 止まらない技工料金ダンピング。 »