私は長くに渡って歯科技工の価値は歯科医療の価値であると訴えてきた。
歯科補綴物の医療物としての価値、品質や精度、それを担保し保証するのは作製に当たる歯科技工士そのものにあると。
しかし、その品質や精度を検品する、検査し認定するシステムは存在しない。
歯科医師の技量やなされる診療行為の精度や内容の評価を客観的に判定するシステムもまた存在しない。
そのうえ、歯科医師法や歯科技工士法では、国内での歯科医療に給される歯科補綴物の作製は日本国内の歯科医師と歯科技工士の資格を保有するものにしか、作製つまり技工を認めていないと法に規定していながら、一方では、そんな法律など存在しないかのように、中国などの海外委託技工物の輸入を、歯科医療補綴物としてではなく、雑貨と言う扱いで歯科医師の裁量権と責任に於いて認めてしまっているのである。
そこには当然国内法で掛かるような法の網は存在しない。
使用される材質や、作成者の資格は何も問われる事は無い。
医療に給されるサービスや使用される医療品や医薬品には当然ある、審査や認定制度も何も無い。
何故その様な患者さんや国民の健康や安心を脅かし歯科医療法、歯科医師法、歯科技工士法を骨抜きにするような解釈や曖昧さがまかり通ってしまうのだろうか。
事前に厚生労働省が品質や安全に責を負うか、制度の盲点を塞ぐべきなのであり、事後に対処すると言う事にされれば、責任を負わされるのはこの場合、歯科医師ということになる。
医療の品質や精度の評価は、あくまでも医療者本人の自覚とモラル、自己研鑽に委ねられているのである。
だからこそ、歯科医師や歯科衛生士、歯科技工士と言った歯科医療専門職の資格やその責任は重いはずであるし、尊重されるべきであると考えてきたのである。
しかし、海外委託歯科技工物に関する限りモラル崩壊を起こしているのは、医療の現場ではなく、海外委託歯科技工物を、医療品としてではなく、単なる輸入雑貨物と解釈している国側にあるとしか思えないのだ。
歯科医療の現場には、神奈川ルールなどの指導医療官による恣意的な制度の悪用や解釈、歯科衛生士業務の恣意的な解釈、海外委託技工など、グレーゾーン、恣意的な曖昧な解釈による制度の乱用、末端の締め付けが二重三重に覆い被さっている。
歯科医師法、歯科衛生士法、歯科技工士法と言った法律は、各専門職の職務や職務範囲を規定しているだけではなく、自覚やモラルを律する事で、職務を行った結果なされる行為や生み出される価値が、劣ることのないように且つ、患者さんひいては国民全体に不利益とならないように制定されているのであると考えるのが妥当であろう。
しかし、その法律自体に瑕疵や想定外の事が現実に起きたときどうなるのか?
コストや安全に見合わない点数で医療を行いうるのか?
衛生士は本来の業務を制限されねばならないのか?
国内より安いという理由だけで、国内では守らねばならない法律や基準が適用されない中国などの海外技工物が流通していると言うような事態がゆるされるのか?
今のまま患者さんの利益や安全が担保され確保されているのかを、専門職だけが対応を迫られ責任を転嫁され、さらに不利益を甘受せねばならないのだろうか。
医療法や制度に問題があれば、一番に影響を受けるのは、各専門職であるように思うが、本当の被害者は患者さんであり最終的には国民とこの日本国が負う事になると思うのだが。
歯科医師法や歯科衛生士法、歯科技工士法は資格や職務を法定し、歯科医師法と歯科衛生士法は昭和23年のほぼ同時に、歯科技工士法は昭和30年に施行されている。
資格を法定するものであるが、その資格や身分の権利や義務を認定するだけではなく、むしろその資格や義務が患者さん、ひいては国民と国に対して如何に付与するかを根底においているはずである。
法や資格が患者さんや国民に不利益を与える事などあってはならないし、その様な場合は速やかに対処するか不利益を排除するのが法自体と国や行政の責務であるはずだ。
医療保険制度や歯科医療の現場に於いて、制度や法の瑕疵や不備に付いては何度となく指摘されてきた。 改定に次ぐ改定、大臣告示や政府の答弁なども何度も出されている。
しかし、そこには患者さんや国民の為に、あるいは患者さんの為に末端が負っている、結果的には患者さんに不利益や影響が及ぶ制度や法の瑕疵や不備についてはまったく触れずに、ただ小手先の改定と責任逃れの摩り替え論しか存在しないのである。
歯科関係の法律は抜本的な見直しがなされないまま、監督官庁や担当者の解釈だけで60年或いは50年と言った年月、放置されてきたと言ってよい。 グローバリゼーションや流通の変化、社会や経済環境の変化に対応していないのである。
これでは法や国家が、患者さんや国民への責任を果たしているとは言えないし、認めるわけにも行かない。
国政や社会の状況と、国の公式なアナウンスを見る限り、国や行政が国民の利益や権利を守る為に存在するのだと言う意義や意識が見えてこないのだ。
法や制度の見直しに対して、我々の側にまったく責任が無かったとは言わない。
むしろ、それぞれの組織の責任は大きいと言える。
それについてはまた別に纏めるとするが、例えば歯科医師会が起こすスキャンダラスな事件があるから業界から正論が出せないと言うのでは困るのである。
国も各組織も要は既存の組織は制度疲労と自己保身にのみその存在を矮小化するばかりで、本来の役目や目的の為に行動出来なくなっているのだ。
こんな状況では、海外委託歯科技工物の存在が示す、法や制度の瑕疵や不備、行政の不作為を指摘し、改めさせようにも手も足も出ないではないか。
先のブログで記事にした歯科衛生士の職務範囲の見直しに関する陳情と署名簿については、わずか20日間の間で48.588名の署名が日本ヘルスケア歯科研究会に集まり、6月4日に杉山精一(歯科医師)、評議員の長岐祐子(歯科衛生士)、事務局秋元秀俊らが厚生労働省大臣秘書室に瀧ヶ平仁大臣付を訪ね、署名の山とともに陳情趣意書を手渡し、続いて医政局歯科保険課に日高勝美歯科保健課長を訪ね大臣宛陳情趣意書の写しを提出し、「歯科衛生士法の誤った解釈の是正」を求めるとともに「歯科衛生士法の改正作業に着手」することを要望したそうである。
更に、日本歯科医師会と日本歯科衛生士会の会長宛てに「歯科衛生士法改正に関する提言書」を提出したと言う。
本来なら患者さんや国民の為に組織がやるべき事を、組織の壁を越えた末端の連携が行ったと言う事である。
これについては、みんなの歯科ネットワーク、オープンWIKIに詳しい報告がございます。併せてお読みください。
同じ視点、問題提起として
以下に海外委託問題に取り組む「隗」を紹介します。
隗(かい)
国民と歯科技工士の権利を守るために活動するグループです。
http://www.geocities.jp/gikotake1965/kaitop2.html
隗では海外委託の民事訴訟を進めており、国家賠償訴訟を6月22日に提出する事になったそうです。
海外委託技工物に関する問題につき、国側が雑貨であり歯科医師の裁量権であると言うような法解釈をとる事は、患者さんへの不利益を国家が容認,し、行っているという事であります。
私も遅ればせながら原告に加えていただけるようお願い申し上げたばかりであり、このブログをお読みになる歯科医師や歯科衛生士、技工士や患者さんの皆さんにも勇気を出して行動していただきたいと切にお願いしたい。
今後とも海外委託歯科技工物の問題や本質を国民や患者さんに開示すると共に、歯科医療の価値と品質を患者さんの為に守る意味でも、一部歯科技工士の問題提起と見過ごす事無く、歯科医療に携わる、いや、国の安全保障、社会保障に一部でも関与し関心を寄せるものであるなら、患者さんと国民の為の問題と捉えてご理解ご協力を頂きたいものである。
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